Basic / Translational Research基礎研究 / トランスレーショナルリサーチ

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2022.03.02

小児外科

基礎研究 / トランスレーショナルリサーチ

「Physician-scientist」(フィジシャン・サイエンティスト)

日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、米国にはそのような立ち位置のスペシャリストが存在します。医師と研究者を兼ね、医師として患者を治療するだけでなく、臨床で得られた知識経験を研究に反映させて、その研究結果を臨床にフィードバックし新たな治療法や新薬を開発するなど、臨床医療と基礎研究の橋渡しの役割を果たし医学に革新をもたらす存在と認識されています。医学・医療の発展に不可欠とされ、特に大学病院などの高度な専門的医療を担う医療機関での活躍が期待されます。

日々目覚ましく医学が発展している現在、日本でもこのようなスタンスを持つ医師の存在が期待されています。つまり、より高いレベルの臨床医学を実践する医師にこそ、自身の臨床経験を基に客観的データを認識・解析し、臨床へのフィードバックする視線が求められているのです。これからの先端医療の現場でこそ、このような研究能力を磨くことが大切です。その能力を磨くために、臨床で経験した事項を積極的に論文化して広く発信することは非常に有効なトレーニング方法であり、我々も積極的に国際医学雑誌への論文投稿を行っています。さらに、有効な方法が“臨床医が行う基礎研究”です。

我々は、外科臨床を行っている外科医が臨床医学を実践しながら質の高い基礎研究を行うことで、Physician-scientistに近い活動を行い、その結果、より質の高い臨床を実践できるように研究環境を整えています。

現在は、腫瘍免疫・移植免疫・外科侵襲に反応する免疫反応、免疫メカニズムが関与し発症する外科疾患など、外科臨床にかかわるさまざまな問題を免疫学的視点からアプローチし研究を進める体制を整備しました。中でも小児固形腫瘍のマウスモデルを用いた研究では多くの成果を上げ、国際論文に掲載されています。また国際学会での発表も積極的に行っています。

2018年に京都、2019年にはフランスのリヨンで開催された国際小児腫瘍学会で発表を行い(写真)、海外の研究者と交流を持ち、異文化に直接触れて国際的視野を身に着けられるような活動を行っています。現在、後期研修医(小児外科専攻医)で学位所得を目指している若手の竹内医師(埼玉医科大学卒)が、臨床研修を行いながらマウス神経芽腫モデルを用いて腫瘍免疫、免疫栄養学、抗体治療医学など多岐にわたる領域を網羅した基礎研究を行っており、国際学会での発表や研究奨励賞(埼玉医科大学総合医療センター若手研究助成、埼玉医科大学同窓会研究奨励落合賞)を受賞しています。今後もますます臨床医として患児たちを助けながら基礎研究でも成果を上げて、学位取得にとどまらず継続的に研究活動を行っていくことを目指しています。

今後も広く外科免疫というテーマで、さまざまな医師が臨床を継続しながら研究活動を可能にし、“基礎研究でも実績のある臨床医”が活躍することで、患者さんとそのご家族がより信頼できる医師が多数育つ診療科として発展していく役割の一端を担っていきたいと考えています。

第2研究棟当科研究室。クリーンベンチ、細胞培養用インキュベーター、蛍光顕微鏡やPCR、ELISA等の各種実験器具を備え様々な実験が施行可能になっています。

 

2019年秋、フランス・リヨンで開催された国際小児腫瘍学会(SIOP)でのポスター発表会場

星の王子様で有名なリヨンノートルダム大聖堂にて

研究協力大学であるドイツRegensubrug大学にて

外科実験外科部門Geissler教授, Dr.Koehl博士とともにmeeting後に記念撮影

 

基礎研究部門業績

学術論文

  1. Inoue S, Setoyama Y, Odaka A: Phagocytosis of Bafilomycin A1-treated Apoptotic Neuroblastoma Cells by Bone Marrow-derived Dendritic Cells Initiates a CD8α+ Lymphocyte Response to Neuroblastoma. J Pediatr Hemotol Oncol Jul;36(5) e290-295, 2014
  2. 井上成一朗、瀬戸山由美子、小高明雄 Chemoimmunotherapyに立脚した抗悪性腫瘍薬の神経芽腫細胞に対する効果 癌と化学療法 41(5) 617-621, May 2014
  3. 井上成一朗: 骨髄由来樹状細胞の腫瘍細胞死貪食を利用した小児神経芽腫の新しい細胞治療の開発 埼玉医科大雑誌 41(1): 37-42, 2014
  4. Inoue S, Setoyama Y, Odaka A: Dxorubicin treatment induces tumor cell death followed by immunomodulation in a murine neuroblastoma model. Exp Ther Med Mar 7(3) 703-708 2014
  5. Inoue S, Setoyama Y, Bech Y, Kitagawa D, Odaka A, Ex vivo induction of antitumor DEC-205+ CD11c+ cells in a murine neuroblastoma model by co-stimulation with doxorubicin, lipopolysaccharide and interleukin-4 Biomed Rep. 2016 Jan; 4(1):27-32
  6. Inoue S, Setoyama Y, Odaka A, Kitagawa D, Beck Y: Chemoimmunotherapeutic effect of combined treatment with ex vivo generated antigen-presenting immune cells and conventional antitumor agents in a mouse neuroblastoma model J Pediar Surg 2017 Oct;52(10): 1642-1650
  7. Inoue S, Horiuchi Y, Setoyama Y, Takeuchi Y, Beck Y, Murakami T, Odaka A: Immune checkpoint inhibition followed by tumor infiltration of dendritic cells in murine Neuro-2a neuroblastoma J Surg Res. 2020 May 4;253: 201-213. doi: 10.1016/j.jss.2020.03.059.
  8. Takeuchi Y, Inoue S, Odaka A: Expression of programmed cell death 1 on neuroblastoma cells in TH-MYCN transgenic mice 2021 Pediatr Surg Int. 39(1):6 2022
  9. Inoue S, Takeuchi Y, Horiuchi Y, Murakami T, Odaka A: CD69 on tumor-infiltrating cells correlates with neuroblastoma suppression by PD-1/PD-L1 blockade J Surg Res. 289: 190-201; 2023

学会発表

  1. 井上成一朗、小高明雄、橋本大定、平岡優: Apoptosis を誘導したマウス神経芽腫細胞による抗腫瘍効果の検討 第48回小児外科学会,東京,2011
  2. 井上成一朗、小高明雄、瀬戸山由美子: マウス神経芽細胞腫におけるvacuolar H+-ATPase inhibitorによる抗腫瘍効果と免疫応答メカニズムの検討: 第49回日本小児外科学会学術集会, 横浜,2012
  3. 井上成一朗、瀬戸山由美子、小高明雄、別宮好文: マウス神経芽腫に対するChemoimmunotherapyの可能性-DoxorubicinとCDDPによる比較- 第114回日本外科学会定期学術集会, 京都,2014
  4. 井上成一朗、小高明雄、瀬戸山由美子、別宮好文: TLR-4刺激とIL-4によるDEC205陽性樹状細動誘導と神経芽腫に対する抗腫瘍効果 第52回日本小児外科学会学術集会, 神戸,2015 
  5. Inoue S, Odaka A, Setoyama Y, Kitagawa D, Beck Y: Generation of anti-tumor CD11c+ cells from bone marrow by applying the chemoimmunotherapeutic concept in mouse neuroblastoma model The 24th congress of the Asian Association of Pediatric Surgeons (Fukuoka Japan) May 25, 2016
  6. 井上成一朗、小高明雄、瀬戸山由美子、北川大輝、別宮好文、Immunogenic cell death誘導神経芽腫細胞を介した抗腫瘍反応誘導を司る自然免疫細胞の解析とTLR刺激の効果の検討 第116回 日本外科学会(2016年4月13日 大坂)
  7. 井上成一朗、瀬戸山由美子、小高明雄、北川大輝、別宮好文、Flt-3 ligandによる抗腫瘍免疫細胞誘導とマウス神経芽腫細胞に対する免疫応答の基礎研究 第54回日本小児外科学会学術集会, 2017年5月11日 仙台国際センター
  8.  Inoue S, Setoyama Y, Takeutchi Y, Mori T, Odaka A, Beck Y. Immune checkpoint inhibiton induce activated dendritic cell infiltration in PD-L1 negative tumor in mouse neuroblastoma model 50th congress of the International Society of Pediatric Oncology (Kyoto Japan) Nov 17, 2018
  9. 井上成一朗、小高明雄, 瀬戸山由美子、小山直基、森隆、別宮好文:[要望演題]小児外科におけるトランスレーショナルリサーチ適している研究分野とその活用法;小児外科固形腫瘍に対する免疫学研究からアプローチするトランスレーショナルリサーチ 第55回日本小児外科学会学術集会 2018年6月1日 新潟 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター
  10.  Inoue S, Horiuchi Y, Setoyama Y, Takeuchi Y, Beck T, Murakami T and Odaka A, Mobilization of multi-functional tumor infiltrating lymphocytes following co-administration of anti-PD-1/PD-L1 antibodies in a murine neuroblastoma model 51st congress of the International Society of Pediatric Oncology (Lyon, France) Oct 24, 2019
  11. 井上成一朗、堀内大、竹内優太、.瀬戸山由美子、別宮好文、村上孝、小高明雄: PD-L1陰性神経芽腫に対する免疫チェックポイント遮断による腫瘍浸潤リンパ球の抗腫瘍免疫誘導メカニズム 第56回日本小児外科学会学術集会 2019年5月23日 福岡県久留米 久留米シティプラザ
  12. 竹内優太、井上成一朗、.瀬戸山由美子、別宮好文、小高明雄:TH-MYCN トランスジェニックマウスにおける腫瘍免疫環境の評価-導入遺伝子が免疫に与える影響- 第56回日本小児外科学会学術集会 2019年5月23日 福岡県久留米 久留米シティプラザ
  13. 井上成一朗、堀内大、瀬戸山由美子、竹内優太、別宮好文、村上孝、小高明雄:重複免疫チェックポイント阻害による多機能性腫瘍浸潤リンパ球の誘導効果 -マウス神経芽腫モデルを用いた解析- 第17回RCGM フロンティアシンポジウム 2019年9月14日 埼玉医科大学毛呂山キャンパス
  14. Inoue S, Horiuchi Y, Setoyama Y, Takeuchi Y, Murakami T, Odaka A, Combination of anti-PD-1/anti-PD-L1 antibodies with the distinct character exerts preferable anti-tumor immune cycle in a murine neuroblastoma model 52nd congress of the International Society of Pediatric Oncology (Virtual Congress) Oct 14-17, 2020
  15. Takeuchi Y, Inoue S, Setoyama Y, Odaka A, Immunological effect of oral ω3/ω6 unsaturated fat intake in mouse neuroblastoma model, 52nd congress of the International Society of Pediatric Oncology (Virtual Congress) Oct 14-17, 2020
  16. 井上成一朗,堀内大,竹内優太,瀬戸山由美子, 別宮好文,村上孝,小高明雄:要望演題1 臨床に繋がる基礎研究1、免疫チェックポイント遮断による腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の抗腫瘍免疫誘導とそのメカニズム解 析-exhaustion maker 発現からみた TIL function の検討 第57回日本小児外科学会学術集会 2020年9月19日東京 都市センターホテル
  17. 竹内優太,井上成一朗,瀬戸山由美子,別宮好文, 小高明雄: 要望演題5 臨床に繋がる基礎研究2 経口 ω3/ω6 不飽和脂肪摂取のマウス神経芽 腫に対する免疫学的効果の検討 第57回日本小児外科学会学術集会 2020年9月22日東京 都市センターホテル
  18. 竹内優太、井上 成一朗、小高明雄:神経芽腫自然発症マウスモデルを用いた免疫学的背景の解析と治療開発 2020年度埼玉医科大学大学院博士課程研究発表会 2020年11月7日(埼玉医科大学毛呂山キャンパス)
  19. Inoue S, Horiuchi Y, Takeuchi Y, Murakami T, Odaka A, Combination of anti-PD-1/anti-PD-L1 antibodies promotes tumor cell phagocytosis by bone marrow derived DCs in a murine neuroblastoma model 53rd congress of the International Society of Pediatric Oncology (Virtual Congress) Oct 21-24, 2021
  20. Takeuchi Y, Inoue S, Odaka A, Fatty acid analysis by oral intake of ω3/ω6 unsaturated fatty acids in neuroblastoma mouse neuroblastoma model, 53rd congress of the International Society of Pediatric Oncology (Virtual Congress) Oct 21-24, 2021
  21. 井上成一朗,堀内 大,竹内優太,村上 孝,小高明雄: 要望演題 骨髄由来樹状細胞の神経芽腫細胞貪食に対 する免疫チェックポイント阻害による免疫効果 第58回日本小児外科学会学術集会 2021年4月28日 横浜 パシフィコ横浜ノース
  22. 竹内優太,井上成一朗,小高明雄 マウス神経芽腫細胞に発現する PD-1 抗原と 抗腫瘍効果免疫反応の検討 第58回日本小児外科学会学術集会 2021年4月28日: 横浜 (on demand 演題)
  23. Takeuchi Y, Inoue S, Odaka A, Expression pf Programmed cell death 1 (PD-1) molecule on neuroblastoma cells in TH-MYCN transgenic mice 35th International Symposium of Pediatric Surgical Research Oct. 21-23, 2022 (Osaka)
  24. Inoue S, Horiuchi Y, Takeuchi Y, Murakami T, Odaka A, Increased CD11b+-CD49b+natural killer (NK) cell tumor infiltration after co-administration of anti-PD-1/PD-L1 antibodies in a murine neuroblastoma model 54th congress of the International Society of Pediatric Oncology Sep 28-Oct 1, 2022, Virtual Congress
  25. 竹内優太、井上成一朗、小高明雄  神経芽腫マウスにおけるω3/ω6不飽和脂肪酸経口摂取による脂肪酸解析の検討 第3回オール埼玉医大 研究の日 2022年11月5日 (Web発表)
  26. 井上成一朗、堀内大、竹内優太、村上孝、小高明雄 マウス神経芽腫モデルにおける重複免疫チェックポイント阻害によるNK細胞腫瘍浸潤誘導と抗腫瘍効果の検討 第3回オール埼玉医大 研究の日 2022年11月5日 (Web発表)
  27. 竹内優太,井上成一朗,小高明雄,別宮好文マウス神経芽腫モデルを用いた経口不飽和脂 肪摂取の生存延長メカニズム解析の試み Survival prolongation by intake of unsaturated fatty acids in TH-MYCN Tg mouse 第59回日本小児外科学会学術集会 2022年5月19(-21)日 東京(虎ノ門)
  28. 井上成一朗,竹内優太,小高明雄,別宮好文 マウス神経芽腫免疫チェックポイント阻害 療法における抗腫瘍リンパ球活性化の検討 Induction of TIL activation by immune checkpoint inhibition in mouse neuroblastoma model 2022年5月19(-21)日 東京(虎ノ門)
  29. 井上成一朗,竹内優太,小高明雄,別宮好文 マウス免疫チェックポイント阻害による腫瘍 DC 浸潤誘導のメカニズム解析 PD-1/PD-L1 blockade followed by tumor infiltration of DCs in neuroblastoma 2022年5月20 (19-21)日 東京(虎ノ門)

 

獲得研究費

科学研究費

2010(平成22)年度 科学研究費補助基盤(C)(平成22年度~平成24年度)(代表)4,980,000円(井上成一朗) 研究課題名:体外細胞死誘導法を用いた新しい小児神経芽腫ワクチン療法の開発

2015(平成27) 年度  科学研究費補助基盤(C)(平成27年度~平成29年度)(代表) 4,810,000円(井上成一朗) 研究課題名:Chemoimmunotherapyを応用した神経芽腫の新しい細胞治療の開発

2018(平成30)年度 科学研究費補助基盤(C)(平成30年度~令和2年度)(代表)4,420,000 円(井上成一朗) 研究課題名:Immune checkpoint 遮断を導入した新規神経芽腫集学的治療の開発

2021(令和3)年度 科学研究費補助基盤(C)(令和3年度~令和5年度)(代表)4,160,000 円(井上成一朗) 研究課題名: 腫瘍組織浸潤免疫細胞解析に基づく新たな神経芽腫免疫チェックポイント阻害療法の開発

その他

2009(平成21)年度 埼玉医科大学 学内グラント50万円(井上成一朗)  研究課題名:神経芽腫マウスモデルを用いた自然免疫細胞による腫瘍死細胞除去と免疫応答の検討

2012(平成24)年度 川野正登記念小児医学研究助成金3,000,000円(井上成一朗) 研究課題名:Bone Marrow-derived Dendritic CellとImmunogenic Apoptotic Tumor Cellを用いた小児進行神経芽細胞腫に対する新しい免疫療法の開発 

2013(平成25)年度 埼玉医科大学 学内グラント 1,000,000円 (井上成一朗) 研究課題名:骨髄細胞由来樹状細胞の腫瘍細胞死貪食を利用した小児神経芽腫の新しい細胞治療の開発

2020(令和2)年 埼玉医科大学総合医療センター 若手医師育成研究費 かもだ特別賞 2100,000円  (竹内優太) 研究課題名:進行神経芽腫に対する栄養免疫療法を組み込んだ免疫チェックポイント遮断療法開発の試み

2021(令和3年) 埼玉医科大学医学部同窓会 第32回落合記念賞症例助成金 800,000円 (竹内優太) 研究課題名:神経芽腫に対する免疫チェックポイント阻害とω3系脂肪酸経口免疫療法を応用した新規免疫治療法の開発に向けた基礎研究

2022(令和4)年 埼玉医科大学総合医療センター 若手医師育成研究費 かもだ特別賞 2000,000円  (竹内優太) 研究課題名:神経芽腫に対する不飽和脂肪酸摂取による炎症惹起がもたらす抗腫瘍効果のメカニズム解析