Hepatobiliary Disease肝胆道疾患の治療
2022.03.02
肝胆膵外科
肝胆道疾患の治療
肝癌
肝癌(肝臓にできる癌)は、「原発性肝癌」と「転移性肝癌」に分けられます。
原発性肝癌
肝細胞癌に対する治療の選択肢は、手術、肝動脈塞栓療法(TAE)・肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肝動注化学療法、ラジオ波焼灼療法など多岐にわたります。当科では、手術治療はもちろん、それ以外の治療についても、内科や近隣施設と連携して患者さんにとってベストな選択ができるような体制をとっています。肝内胆管癌については、可能な限り手術による切除の可能性も模索しつつ、化学療法も積極的に行っています。
転移性肝癌
一般的にステージⅣの癌に対しては、手術による根治は難しく適応となりませんが、大腸癌(直腸癌含む)、神経内分泌腫瘍などでは、手術による治療効果が報告されています。その他の癌についても、基本的には抗がん剤治療がメインですが、切除の有効性があれば、切除も積極的に検討しています。
肝切除では、肝臓の機能や腫瘍の進行度(大きさ、数、場所、血管・胆管への浸潤の有無、転移の有無)、患者さんの全身状態などによって、手術の方法(術式)が変わります。その際に、切除する肝臓の容積は非常に重要であり、SYNAPCE VINCENT®による術前のシミュレーションを行い、安全な肝切除を心がけています。また当科では、血管を同時に切除して再建まで行うような拡大手術から、腫瘍の周囲のみを切除するような部分切除まで幅広く行っております。
従来は開腹手術(みぞおちから臍までと、右肋骨までの横の切開を加えた逆L字もしくはJ字切開と呼ばれる皮膚切開で行う手術)で行われてきましたが、近年では、腹腔鏡による手術も積極的に行われるようになっています。当科では10年以上前から「腹腔鏡下肝切除」を導入しており、「葉切除」とよばれる比較的大きな肝切除も腹腔鏡で安全に行っています。
胆道癌
肝臓で作られる消化液(胆汁)の通り道を「胆道」と呼び、そこに発生する癌を「胆道癌」と言います。発生する場所によって、「肝門部領域胆管癌」「胆嚢癌」「遠位胆管癌」「十二指腸乳頭部癌」など名称が変わります。(肝臓内の胆管に発生する癌は肝内胆管癌といい、これは前述の肝癌に分類されています。)胆道癌は早期発見が難しく、診断された時点でかなり進行していることが多いのが一般的です。そのため、手術が困難と判断されることも多い癌になります。また、発生する部位によって手術の方法も異なります。
肝切除、膵切除、その両方が必要となるケースや、血管も一緒に切除(血管合併切除)し、残った血管をつなぎ合わせる(再建)ため、高難度で周術期の死亡リスクの高い手術が必要となることもあります。当院では消化器・肝臓内科の胆膵グループと密に連携し、術前の詳細な評価を元に、安全性と根治性のバランスを取った手術を選択しています。血管合併切除再建が必要な大きな手術も安全に施行しています。
その他の胆道疾患
胆のう結石症、胆のう炎
胆のう結石症や胆のう炎に対しては、胆嚢摘出術が施行され、全国的に腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われています。当科では、「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術」を、ほぼ全ての患者さんに行っております。「単孔式」とは、おへそのキズのみで行う手術です。おへそのキズは、おへそのように戻っていきますので、患者さんの見た目は、まるで手術をしていないように見えます。総胆管結石症に対しては、基本的に消化器内科医師が内視鏡的で治療を行いますが、一部の患者さんでは内視鏡治療が行えないことがあります。その際には、手術で総胆管を切開し、結石を摘出します。多くは胆嚢摘出術と同時に行われます。当科では、可能な限り、総胆管切開結石採石術を腹腔鏡で行っています。
膵・胆管合流異常、先天性胆道拡張症
膵臓でつくられ、膵管を通る膵液と、肝臓でつくられ、胆管をとおる胆汁は、十二指腸乳頭部という十二指腸の出口から排出され、食べ物の消化に役立っています。通常膵管と胆管は、十二指腸壁内で合流し、それぞれが混ざりあうことはありません。膵・胆管合流異常とは、膵管と胆管が通常よりも手前で合流し、膵液が胆管に流入してしまう、生まれつきの異常(先天異常)です。
膵・胆管合流異常により、胆管が拡張している状態の病気を先天性胆道拡張症と呼び、いくつかの分類に分けられています。
日本胆道学会より引用
膵・胆管合流異常では、胆管に膵液が流入することで、胆管上皮が障害をうけ、胆管炎や胆石、胆道癌の発生に関与するといわれています。先天性胆道拡張症をあわせもつ方の、胆道癌の発生頻度は5〜10人にひとり、胆道拡張がない方の、胆道癌の発生頻度は3〜4人にひとりと、非常に高い確率となっています。膵・胆管合流異常では、膵液が胆管に流入しないように、流れを分断する手術が行われます(分流手術;肝外胆管切除、胆道再建)。また、胆道拡張の有無により、胆道癌の発生部位が異なるとされており、胆道癌の予防として、先天性胆道拡張症をもつ方には分流手術を、胆道拡張のない方には胆嚢摘出が行われます。当院では、分流手術も腹腔鏡下手術で行っており、患者さんの負担軽減に努めています。
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