Neonatal surgery総合周産期母子医療センター新生児集中治療室

  1. トップページ
  2. 技術
  3. 総合周産期母子医療センター新生児集中治療室

2022.03.02

小児外科

総合周産期母子医療センター新生児集中治療室

我々は新生児科、産科、小児科と密に連携し、出生前から外科治療完了後も含め長期にお子さんにかかわることで、お子さんが幸せな日常生活を手に入れるまで医療機関としてお子さんとそのご家族に関われる診療体制をとっています。出生前診断された先天性外科疾患のお子さんに対しては、新生児科、産科と事前に症例検討を行い、出産時期、出産方法、出生後の緊急対応方法についてお母さんとお子さんにとって最善な治療を選択しています。

出生前診断をもとに連携して緊急対応している主な疾患

  1. 先天性横隔膜ヘルニア (*1、*2)
  2. 先天性食道閉鎖症
  3. 胎便性腹膜炎、先天性十二指腸閉鎖、小腸閉鎖症
  4. 胎児腹壁疾患(先天性腹壁破裂、臍帯ヘルニア) (*1、*3、*4、*5)
  5. 胎児小腸捻転 (*6)

これらの疾患は、出生後緊急対応でお子さんを救命する必要があります。状況に応じて新生児科医師とともに出産に立ち会い、まずお子さんの究明を図って早期に外科治療を行います。当院では18トリソミー、13トリソミーなどの重症な染色体異常を伴っているお子さんに対しても、個々のお子さんの他の合併疾患などを考慮しながら関連する各部門と綿密に協議し、お子さんとご家族にとって最もメリットが大きいと思われる治療を選択しています。

出生前診断から新生児期に慎重な観察を行い、適切な時期に根治手術を行うことが多い主な疾患

  1. 先天性嚢胞性肺疾患(Congenital pulmonary malformation:CPAM、肺分画症など)
  2. 出生前診断された先天性胆道拡張症
  3. 先天性腹腔内嚢胞性疾患(胎児卵巣嚢腫、消化管重複症、腸間膜嚢胞、大網嚢胞など)

これらの疾患は、まれに生後早期に症状が出現することがあるので、出生後慎重に見極めて必要があれば早期に手術を行います。幸い新生児期に症状が現れない場合は、お子さんの成長を待って乳児期から幼児期に手術で根治を目指します。

出生時・出生後に診断されることが多い疾患

  1. 鎖肛(直腸肛門奇形)(*7)
  2. Hirschsprung病
  3. 腸回転異常症、中腸軸念

Hirschsprung病は出生後しっかりと疾患とその病型を診断します。出生後早い段階で一時的人工肛門造設を行って救命し、乳児後期に根本治療を行うことが基本になります。腸回転異常に伴う中腸軸念は他医療機関から新生児搬送されてくるお子さんも多いですが、緊急疾患のため診断を早期に確定して緊急手術で治療します。

リスクの高い状態で出生したお子さんに発症する重症疾患(*8、*9)

  1. 新生児壊死性腸炎(Necrotizing enterocolitis: NEC)
  2. 新生児特発性消化管穿孔(Local Intestinal Perforation:LIP)
  3. 胎便関連性腸閉塞(Meconium related ileus: MRI)
  4. 新生児消化管穿孔

出生体重1000g未満の超低出生体重児、多発合併疾患のあるお子さん、先天性呼吸器、心臓疾患を持ち重症管理を行っているお子さんにみられることが多く、生命に危険が及びやすい疾患といえます。造影検査による診断的治療、腹腔ドレナージ、開腹手術など様々な治療法を新生児科と連携しながら組み合わせ、お子さんにとって最小限の負担で最大限の治療効果が得られるように日々努力しています。また、これらの疾患は一時的小腸瘻(小腸人工肛門)を造設し、状態改善とお子さんの成長を待って腸瘻を閉鎖します。この間口側腸瘻から排出された便汁を肛門側腸瘻に注入して、より生理的状況を作りお子さんの状態の完全を図る「stool recycling(便戻し)」を早期から実践し、お子さんの成長発達にもよい効果を上げています(参考)。

稀な新生児先天性疾患の経験

  1. 先天性会陰部脂肪腫 (*10)
  2. 先天性乳び胸水(胸腔羊水腔シャントチューブ逸脱) (*11)
  3. その他

当院が有する大きな規模のNICU(新生児集中治療室)では、母体搬送から新生児搬送まで対応しており、希少疾患を他施設より多く経験することができます。このような経験は、医師や看護師にとって貴重な経験となるため、積極的に論文報告で広く情報を発信しています。幅広い先天性外科疾患の治療はもちろん、高度な新生児治療に必要とされる各種留置型カテーテル挿入や、各種ドレナージチューブの留置など、新生児外科医としての技術を駆使して積極的に治療に参加しています。最先端の新生児医療を実践している当センター小児外科では、目の前のお子さんに最善の治療をすることに加え、これから生まれてくるお子さんの治療にも貢献する目的で、治療経験を積極的に学会・研究会発表や論文発行を通して広く情報発信しています(*11)。

小児外科では良質な医療を行うため、「看護師を含めたチーム全体の能力が高いことが必要」というコンセプトのもと、新生児医療の発展への貢献を目指しています。(*12~*16)患者さんご家族が安心してお子さんの治療を託すことができると同時に、他施設からも信頼され、領域における先駆的医療施設として、社会に貢献できる新生児医療の展開を目標に、日々努力を継続しています。

*1 Inoue S, Odaka A, Muta Y, Beck Y, Sobajima H, Tamura M Coexistence of congenital diaphragmatic hernia and abdominal wall closure defect with chromosomal abnormality: two case reports. J *2 Med Case Rep. 2016 Jan 22;10(1) 19
*3 Inoue S, Odaka A, Muta Y, Takeuchi Y, Yamashita T, Kabe K, Sakurai Y, Left hemidiaphragmatic elevation: Value of histology Journal of Pediatric Surgery Case Reports Vol 60, Sep.101546, 2020
*4 牟田裕紀、小高明雄、井上成一朗 腹壁破裂に合併した出生時腹腔外脱出精巣の経験 日本小児泌尿器科学会雑誌 26(1): 80-82 2017
*5 牟田裕紀、小高明雄、井上成一朗、別宮好文 臍部にストーマを造設し環状皮膚縫合により閉鎖したKagami-Ogata症候群に伴う臍帯ヘルニアの1例 日本小児学会雑誌 54 (7), 1379-1383, 2018
*6 牟田 裕紀、小高 明雄、井上 成一朗、竹内 優太、 別宮 好文 左側腹壁破裂の2例 日本小児学会雑誌 56 (3), 302-308 2020
*7 井上成一朗、小高明雄、牟田裕紀、竹内優太、加部一彦、馬場一憲 Intestinal volvulus without malrotationの診断時期と治療成績の検討 日本小児外科学会雑誌 第56巻4号 p.376-382 2020
*8 Muta Y, Odaka A, Inoue S, Beck Y: Isolated anorectal malformation with rectoperineal fistula in monozygotic twins. Journal of Pediatric Surgery Case Reports 49:101285, 2019
*9 井上成一朗、小高明雄、國方徹也、川崎秀徳、伊藤加奈子、山名啓司、栗嶋クララ、斎藤綾、側島久典 、田村正徳 妊娠24週未満出生児のgastrointestinal complication of prematurity-外科的治療を要した症例の検討 日本周産期・新生児医学会雑誌 49(1): 92-94, 2013
*10 Inoue S, Odaka A, Muta Y, Beck Y, Sobajima H, Tamura M: Recycling Small Intestinal Contents from proximal ileostomy in low birth weight infants with small bowel perforation: Retrospective case series. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2017 Jan;64(1): e16-e18
*11 竹内優太、井上成一朗、小高明雄 牟田 裕紀, 菊地 淳, 別宮 好文, 加部 一彦, 馬場 一憲 女児先天性会陰部脂肪腫2例の臨床経過と病理組織所見 日本小児外科学会雑, 第56巻7号 1099-1103, 2020
*12 Inoue S, Odaka A, Baba K, Kunikata T, Sobajima H, Tamura M: Thoracoscoy- assisted removal of a thoracoamniotic shunt double basket catheter dislodged into the fetal thoracic cavity: Report of three cases, Surgery Today 2013 Apr; 44(4) 761-766
*13 荒木啓樹、井上成一朗、小高明雄、牟田裕紀、竹内優太、青木正康、加部一彦、側島久典、田村正憲 新生児胃瘻造設患児に対する周術期看護~先天性食道閉鎖症患児の安全な胃瘻固定方法の開発の試み with NEO 32 (2):137-142, 2019
*14 荒木啓樹、井上成一朗、小林彩乃、半井桃香、高崎将、大河原梨恵、丸田祥平、竹内優太、牟田裕紀、小高明雄 消化管不全に移行した在胎23週超低出生体重児の腸瘻合併症に対する看護管理の経験 with NEO 2021
*15 荒木啓樹、井上成一朗、小高明雄、牟田裕紀、加部一彦、側島久典、田村正徳: 出生体重600g未満新生児のストーマ管理-看護的問題の検討- 第54回日本周産期・新生児医学会総会 2018年7月9日 東京国際フォーラム
*16 荒木啓樹、井上成一朗、小高明雄、牟田裕紀、竹内優太、青木正康、加部一彦、 消化管不全に移行した在胎23週超低出生体重児に腸瘻合併症に対する看護管理の問題点 第33回日本小児ストーマ・排泄・創傷管理研究会2019年6月15日 岡山 おかやま未来ホール
*17 荒木啓樹、半井桃香、高崎将、小林綾乃、牟田裕紀、竹内優太、加部一彦、小高明雄、井上成一朗:出生体重300g台の回腸瘻に対する看護管理の経験 第34回日本小児ストーマ・排泄・創傷管理研究会2020年5月(誌上開催)高崎将、小林綾乃、荒木啓樹、半井桃香、牟田裕紀、竹内優太、加部一彦、小高明雄、井上成一朗:超低出生体重児の小腸ダブルストーマに対する看護ケアの経験 第34回日本小児ストーマ・排泄・創傷管理研究会2020年5月(誌上開催)

受診をご希望の方はこちら