Pediatric endoscopic surgery小児の内視鏡手術
2022.03.02
小児外科
小児の内視鏡手術
当科では、安全で身体への負担の小さい「内視鏡手術」を心がけております。現在、内視鏡手術(腹腔鏡手術・胸腔鏡手術)は低侵襲手術として広く行われており、小児においても様々な手術で内視鏡手術が導入されています。内視鏡手術は傷が小さいため、痛みが少なく術後の回復が早いこと、整容性に優れていること、術後の腸閉塞が少ないことなどのメリットがあります。一方で、内視鏡手術はその手術操作に従来の開腹・開胸手術とは異なる技術が必要となり、手術時間が長くなる傾向があることや、疾患の状態や体格などによっては安全性が損なわれる可能性があるなどのデメリットもあります。そのため当科では、術前に十分に検討した上で、適していると判断した場合に内視鏡手術を選択しております。また、肝胆膵領域の手術の場合には肝胆膵外科チームと共同で手術を行なっています。
腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(LPEC法)
「こどもの鼠径ヘルニア」の原因はお母さんのおなかの中にいたとき(胎児期)にあるおなかと足の付け根にできた通り道(腹膜鞘状突起)が残ることで起きることがほとんどです。「おとなの鼠径ヘルニア」とは違いおなかの壁が弱くなって脱出してくるわけではないので、腹壁の補強はいりません。開いたままになっている通り道(腹膜鞘状突起)の根元を糸で縛る(高位結紮)だけでこどもの鼠径ヘルニアは治ります。通り道をふさぐ方法は大きく2つに分けられます。ひとつは足の付け根を切る方法(鼠径部切開法:Potts法など)、もう一つはおへそから内視鏡をおなかに入れて内側から観察しながらヘルニアの出口を閉める方法です(腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術:LPEC法)*1)。
当科ではこどもの鼠径ヘルニアの治療方法として、LPEC法を導入しております。LPEC法では反対側の腹膜鞘状突起の開存の有無を確認できるため、反対側の鼠径ヘルニアを予防的に閉鎖できるメリットがあります。これにより、術後に認められることがある反対側の鼠径ヘルニアの発症をほぼ0に抑えることができます。女児ではヘルニア手術部位周辺に重要な臓器がないため、LPEC法の良い適応であると言われております。
LPEC法は20年の歴史であり *2)、男児の妊孕性に関する長期予後がまだ十分に明らかになっていないなどの問題があります。適切に手術が行われれば妊孕性への影響は少ないと考えられておりますが、男児では100年以上の歴史がある *3)鼠径部切開法(Potts法など)を第一選択としております。今後、安全性が確認されれば適応の拡大を検討していきます。また、当科では鼠径ヘルニア手術をより安全に行うために、年齢に影響される術中の解剖学的偏位などを検討し報告しております *4)。
腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(LPEC)手術画像
腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(LPEC)術前画像
鼠径ヘルニア
ヘルニアなし
腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(LPEC)術後画像
左鼠径ヘルニアを閉鎖
腹腔鏡下虫垂切除術
急性虫垂炎は学童期以降のこどもの急性腹症で最も多い疾患です *5)。当科では虫垂炎の治療として整容性の面や術後の開腹が早いことを考慮して、腹腔鏡下虫垂切除を行なっております。緊急手術の必要性の低い単純性虫垂炎や術中合併症のリスクの高い腫瘤形成性虫垂炎では基本的に保存的治療(抗菌薬の点滴による治療)を先行させております。抗菌薬による保存的治療の成功率は非常に高くなっておりますが、その遠隔期の再発率は8-35%と報告されており *5)、この数字は無視できません。そのため、最初の入院で手術を行わなかった場合には、再発のリスクを考慮して予防的に虫垂を切除することがあります。予防的な虫垂切除術の場合は、虫垂炎の影響を考慮して、初回入院前から3ヶ月以上期間をあけた上で、腹腔鏡下虫垂切除術を行なっております。
待機的な腹腔鏡下虫垂切除の場合は、当日から絶食で術翌日から飲食を再開しております。日常生活へ戻れることを確認し、術後3日前後での退院が一般的です。待機的腹腔鏡下虫垂切除では炎症が改善し、また周囲への炎症の影響が改善する治療後3ヶ月以降で行っております。これにより、安全かつより容易に手術を行うことができるとされております。
腹腔鏡下虫垂切除術 術中写真
漏斗胸手術(Nuss法)
漏斗胸とは前胸部が陥凹(へこむ)疾患です。乳幼児期に気付かれることが多いですが、身長・体格が大きく変化する小学校高学年頃から症状が出現することもあります。また、学校検診で指摘されて初めて気付く場合もあります。漏斗胸は見た目の問題に加えて、心肺機能への影響があることやそのほかの疾患に合併することが知られています *6)。心肺機能への影響が少ない場合は手術が必要ない場合もありますが、小さな時から漏斗胸がある場合は症状を自覚していない場合があります。また年齢が高くなると胸の形を気にして手術をして治したいと思う場合もあります。漏斗胸に関して相談をしたい場合はぜひお気軽に外来受診をしてください。
現在、漏斗胸の手術方法はNuss法7)が一般的に行われております。脇の下に2cm程の小さい傷を作り、そこから金属のバー(ステンレスもしくはチタン)を挿入して凹んだ胸部を持ち上げます。バーは体格に応じて1−2本挿入するのが一般的です。バーがずれないように肋骨に固定するとともにスタビライザーを使用します。バーを挿入するときに、胸部臓器(心臓や肺など)の損傷が起こらないように内視鏡(胸腔鏡)で観察しながらバーを挿入します。術後の気胸や出血の確認のため、胸の中に管(胸腔ドレーン)を挿入する場合があります。
術後は胸の形が大きく変化するため、痛みが強く出ることが多いです。そのため様々な痛み止めを使用します。術後2−3日かけて徐々に座る練習、歩行練習を進めていきます。術後5−7日での退院を目標としてリハビリを行なっていきます。退院後はバーのずれ、内出血の予防のため運動制限が必要になります。体育は2ヶ月ほど見学としています。術後1カ月から散歩や軽いランニングを開始できます。3カ月後から通常の運動は可能です、バーが入っている間は胸に強い衝撃がある柔道やラグビーのようなスポーツはできません。金属のバーは平均2−3年挿入して胸の形が安定したら抜去手術を行います。抜去の手術は2泊3日の入院で、退院後は速やかに日常生活に戻れます。
漏斗胸画像、漏斗胸のレントゲン画像
4歳女児レントゲン側面像 → 部分の胸骨が凹み心臓を圧迫している
Nuss法
参考文献*7より引用金属のバーを胸腔内へ挿入し、バーを180°反転させ胸の凹みを矯正する
手術前後 14歳男児 思春期に陥凹が進んだ症例
左術前 / 右術後
漏斗胸 術中写真
漏斗胸術後 レントゲン写真
当科で内視鏡手術を行なっている疾患
鼠径ヘルニア、虫垂炎、腸管重複症、尿膜管遺残、非触知精巣、卵巣腫瘍、胃瘻造設術、噴門形成術、Hirschsprung病、高位鎖肛、脾臓摘出術、胆嚢摘出術、漏斗胸、妊孕性温存手術など、そのほか症例に応じて内視鏡手術、内視鏡補助手術を導入しております。
*1 日本ヘルニア学会 小児の鼠径ヘルニアの治療方法についてURL: https://jhs.mas-sys.com/civic2.html
*2 Takehara H, Ishibashi H, Sato H,et al:Laparoscopic surgery for inguinal lesions of pediatric patients.Proceedings of 7th world congress endoscopic surgery, Singapore, pp 537–541,200
*3 八代 豊雄:小兒鼠蹊「ヘルニア」ノ療法ニ就テ 順天堂醫事研究会誌M44巻 457号:1-10, 1911
*4 Muta Y, Odaka A, Inoue S, et al:Female pediatric inguinal hernia: uterine deviation toward the hernia side. Pediatr Surg Int, 2021
*5 日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会 エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017
*6 植村貞繁:漏斗胸 小児科臨床71(増刊):1917-1922, 2018
*7 Nuss D, Kelly RE Jr, Croitoru DP, Katz ME: A 10-year review of a minimally invasive technique for the correction of pectus excavatum. J Pediatr Surg 33:545–552, 1998
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